保育士が覚えておきたい、発達障害の種類と関わり方


現在、日本国内では児童の100人に6人が持っているといわれる発達障害。
保育園なら1クラス25人に1人~2人はみられることになり、決してまれな障害ではありません。
すでに乳児健診などで診断され、療育手帳を持っている子どももいますが、まだ診断がついておらず、保護者も受診に積極的でないケースもあり、対応が難しい場合も。
発達障害を持つ子どもには、種類や程度にもよりますが、ほかの子どもたちと同じように保育園で過ごすことが困難な場面が多くみられ、保育する側にも特別な配慮が求められます。
今回は、保育の現場で出会うことも少なくない代表的な発達障害について紹介し、日常でよくみられるケースをあげながら、関わり方を学んでいきたいと思います。

発達障害の種類と特徴

発達2

子どもの発達障害の種類はさまざまですが、症状の特徴を知っておくことで、早期発見、早期治療につなげることもできます。
ここでは、幼児期に見つかりやすい主な発達障害について解説します。

●広汎性発達障害●

発達の過程で、いくつかの障害が同時に起こるもので、自閉症、アスペルガー症候群などが含まれます。早ければ1歳半ごろに疑いがもたれ、3歳以降に診断されます。

<特徴>

視線が合わない
言葉が出ない
指さしをしない
同じ行動を繰り返す
人まねをしない
表情が乏しい
ごっこ遊びをしない
友だちに興味を示さない
順序や決まったやり方に異常にこだわる
突然大声を出したり、泣いたり、笑ったりする

●注意欠陥・多動障害(ADHD)●

そわそわして落ち着きがなく、衝動的に行動します。集中力が続かず、注意力も散漫で、忘れ物や聞き逃しが多くなります。4歳以降に正式な診断がなされます。

<特徴>

遊びや活動に集中できない、すぐに飽きる
話かけられても聞いていない
指示を理解しない、従わない
靴やかばんを間違えるなど、取り違えが多い
ものをよくなくす
座っていられず、立ち歩いたり寝転んだりする
走り回り、高いところに上るなど、じっとしていない
手足を意味なくそわそわと動かす
過剰にしゃべりすぎる
順番を待てない
友だちに手を出したり、邪魔をする

●学習障害(LD)●

知的な遅れはなく、学習における「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算する」「推論する」という能力のなかで、特定のものが障害されます。本格的に障害が現れるのは小学校以降ですが、読み書きや数などに興味を持ち始める3歳ごろに発見されることがあります。

<特徴>

言葉の言い間違い、聞き返しがとても多い
落ち着きがない
友だちと遊べない
歩き方がおかしい、よく転ぶ
靴をよく左右間違えてはいている
はさみが使えない、折り紙、のりづけなどができない
ボタンのかけはずしがなかなかできない
できることとできないことの差が激しい

発達障害の子どもへの関わり方 8つのケーススタディー

では、このような特徴をもつ発達障害の子どもたちに対しては、どんな対応が望ましいのでしょうか。
保育の場で実際に起こりうるケースごとに、子どもの気持ちを考え、関わり方のヒントを見ていきましょう。

ケース① 登園時、親から離れられず大泣きしたときは?

【子どもの気持ち】

・環境が変わることが不安
・感覚が過敏で、園のざわざわした雰囲気が苦手
・ここがどこか、これから何があるのかわからず不安

【関わり方のヒント】

→ 登園したらリラックスできる場所(ラグを敷いたおもちゃコーナーなど)へ
→ 母親が迎えにくる時間を教える(お昼寝をしておやつを食べたら、など
→ その子の好きな遊びに誘って、気持ちを切り替える

ケース② 靴やかばんを決められた場所におけないときは?

【子どもの気持ち】

・どこに何を置けばいいのか覚えていない
・今、何をすればいいのかがわからない
・他に興味のあるものを見つけて早くそこに行きたい

【関わり方のヒント】

→ 持ち物とそれを置く場所に同じマークをつける
→ 絵や写真を使った手順表を見せながら、手順を教える
→ 「靴を脱ごうね。下駄箱に入れようね」と、動作に言葉を添えて一緒に行う
→ できたらその都度、「よくできたね」とほめる

ケース③ 朝の会でお話を聞く時間にじっとしていられないときは?

【子どもの気持ち】

長い文を聞き取れず話の内容がわからない
・他のクラスの音が気になる
・目に入るものに気を取られて落ち着かない
・自分の体が動いていることに気づいていない

【関わり方のヒント】

→ 注意がそれるようなもの(おもちゃなど)は見えないようにする
→ 「今すること」「これからすること」を絵で表したカードを見せる
→ 一度動くと落ち着くことがあるので、何か頼んで動いてもらう
→ 話をするときは、「これから3つのことを言います」などと予告して、子どもを注目させてから話す

ケース④ 自由遊びの時間に、友だちと遊ぼうとしないときは?

【子どもの気持ち】

・一緒に遊びたいけど、入り方がわからない
・今、なにをすればいいのかわからない
・友だちと遊ぶことに関心がない

【関わり方のヒント】

→ 保育者との一対一の遊びから始め、人と遊ぶ楽しさを経験させる
→ 「入れて」「遊ぼう」など遊びへの入り方を保育者がやってみせる
→ 遊びをコーナーごとに分け、そこで何をしているかわかりやすくする
→ 遊びのルールは、子どもの発達に合ったものに変える

ケース⑤ 製作の時間なのにやろうとしないときは?

【子どもの気持ち】

・これから何をするのかわからない
・課題に興味がない
・友だちと一緒にやるのが落ち着かない
・うまくできないのがいや

【関わり方のヒント】

→ 手順を絵で表した手順表を用意し、子どもの前に置く
→ 必要のないものはしまう
→ 完成した見本を飾っておく
→ 工程ごとに声をかけ、手が動かないときは一緒に作る
→ 達成感を味あわせ、成功体験で終わるようにする

ケース⑥ お散歩で外に出ると、列から離れてしまうときは?

【子どもの気持ち】

・どこへ行って何をするのか予測できずに不安
・目に入るものが気になってそこへ行きたい
・触覚が過敏で、手をつなぎたくない

【関わり方のヒント】

→ 散歩コースや行先の絵を時系列で並べて見せ、流れがわかるようにする
→ 「池には近づかない」など、約束ごとを絵カードにして確認する
→ 日頃から、どんなときに集団を離れるのか観察しておく
→ 道路への飛び出しなどには細心の注意をする
→ 他のところに関心がそれそうになったら、声をかける

ケース⑦ 食事をなかなか食べてくれないときは?

【子どもの気持ち】

・味覚が過敏で、刺激に弱く、濃い味が苦手
・食べ物の形や色にこだわりがある
・においに敏感で、食べられない
・熱すぎる、冷たすぎるものが食べられない

【関わり方のヒント】

→ 見た目が多いとそれだけで食欲をなくすこともあるので、子どもの食べきれる量を出す
→ 同じ食材でも調理法を変えたり、煮物を食材別に分けるなど、食べやすくする
→ 苦手なものは無理強いせず、「残してもいいよ」と声をかける
→ 少しでも食べられたらほめ、食事は楽しいものと感じさせるようにする

ケース⑧ 帰る時間になってもしていることをやめようとしないときは?

【子どもの気持ち】

・帰りの支度など、するべきことがわからない
・まだ園でやりたいことが終わっていない
・帰り時間の、ざわざわした雰囲気がいや
・「今日は終わり」だということがわからない

【関わり方のヒント】

→ 自分のかばんや持ち物がわかる印をつけて、帰り支度がひとりでできるようにしておく
→ 「もうすぐ終わりだよ」と事前に予告する
→ 「帰りのバスに乗る時間だね」と、バスの絵カードを見せて声かけをする
→ 「早くしなさい」「バスに遅れるよ」など、否定的な言葉は避ける
→ 行動の切り替えができたらしっかりほめる

終わりに

発達3

発達障害の子どもや、障害かどうかはわからなくても「ちょっと気になる子」は、どのクラスにもいます。
大切なのは、子どもの発達を見極め、その子に合った目標をたてて、ひとつひとつクリアしていくこと。子ども自身が「できた」という成功体験を何度も積み重ね、その子なりの成長の階段を上っていくのを、保育者は焦らずゆったりとした気持ちで見守りたいものです。
子どもの発達に関する専門家、保育のプロとして、すべての子どもたちが自己へのゆるぎない肯定感を育んでいけるよう、日々、心して取り組んでいきたいですね。


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